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まるやまさんの感想、レビュー

独ソ戦におけるソ連赤軍女性狙撃手セラフィマの物語。狙撃手となるきっかけから始まり、精錬な狙撃手になるまで、彼女のあらゆる変化を段階的に描き、彼女を取り巻く環境における悲しみ、苦しみ、信頼、緊張などをドラマチックに激情的に記した。事実の記載を引用しているので、フィクションでありながらノンフィクションのような臨場感があり、戦争を経験した女性たちの異次元の思考を共有できる。戦争という環境に順応し蝕まれてしまった女性達の達観した思考を物語における一種の"落ち"として使用する高度な文学に感嘆した。タイトルの「敵を撃て」に関して、セラフィマにとっての"敵"が単純に母を殺したドイツ兵だけを表すだけでなく、広義的な意味でのドイツ軍全体から女性を侮蔑する自軍兵、もとい最終的に婚約者であるミハイルにまでかかっており、単純なタイトルにも深い意味が隠されている。かなりページ数のある作品だが、どのページにおいてもダレるところがなく、最初から最後までのめり込んだ。マイナス点を挙げるとすれば、一部の仲間を失った悲しみはあるものの、悪い意味でフラグが立っていたというか、感情移入の少ない人物だけが亡くなったように思えた。また、ラストの締め方があまりにも希望的すぎて、中盤が悲惨であったぶん拍子抜けではあった。が、総じてそれをもぶっ飛ばすような素晴らしい作品。強い女性を描いた作品は個人的好みであるので、イリーナ率いる狙撃兵部隊への敬愛の念が絶えない。胸を張って人にお薦めしたい最高の作品。

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