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チェリーネネ🍒さんの感想、レビュー

過去のトラウマから他人との接点を持たない青年、橘は、上司からの命令で音楽教室のスパイとなる。 そこで師となったチェロ奏者、浅葉桜太郎の演奏に魅せられるが、彼の前で、橘は何ひとつ真実を話すことを許されなかった。 印象に残ったフレーズ 「講師と生徒のあいだには、信頼があり、絆があり、固定された関係がある。それらは決して代替のきくものではないのだと」 「音楽教室での指導で使った楽曲に、著作料が発生するか」という問題に対して、音楽教室の講師が発した反論だ。音楽教室での生徒は、決して「不特定多数」ではない、という意味が込められている。 この本のキーワードはきっと「信頼」だ。音楽には、他では変えられない種類の「信頼」を得ることができる。一度その信頼を木っ端微塵にしてしまっても、人を恐れるようになってしまっても、気持ち次第で飛び越えられる。 橘が、上司からの命令で、浅葉に嘘をつかなくてはならない描写は、胸が痛んだ。音楽は本来自由なものなのに、それに心を悩まされなければいけないのは、許されないことだと思った。 現実でも、音楽教室での著作権問題は、長らく抗争が続いている。確かに、「音楽」という文化を末永く発展させていくためには著作料というものは必要だが、それでも、音楽教室で得られる経験や、信頼関係は、代替の効かない唯一無二のものだと思う。

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